金袋山のミズナラ
以前紹介した「倉沢のヒノキ」でも触れたように、山林が94%を占める奥多摩町には多くの巨樹があります。しかし深い山中に立つ樹もあり、広く知られていない場合があります。
「金袋山のミズナラ」は、まさにそんな樹のひとつ。10年ほど前にメディアで紹介されたのを機に、一躍有名になりました。
樹への道のりはJR青梅線の終点奥多摩駅からバスに乗り約30分。観光スポットとしても有名な日原鍾乳洞バス停(終点)で下車し、10分ほど歩いた場所にある一石神社の境内を抜けると、金袋山への入山口があります(入山口は他にもありますが、現在、神社より先の道は落石の影響で通行止めとなっています)。
「ここを本当に登るの?」。登山をためらうような急斜面に最初は驚きましたが、案内板やルートを示す木に巻かれたテープなどがあるため、事前にしっかりと準備していれば、それほど迷うことはありません。
とはいってもいざ山中に入ると、急な登りが数十分続きかなりハード。ところどころにある石段を頼りにしながら「いつ休憩しようか……」と考えていると、山中にもかかわらずベンチがあり、ホッと一息つくことができました。
次第に傾斜は緩やかになり、スギやヒノキが植樹されたところもあります。休憩も含め登山開始から約2時間。山の中腹というのでしょうか、突然なだらかな台地が広がっています。すると、ミズナラの巨樹がここまで登ってきて苦労をねぎらい迎えてくれるかのように、目の前に表れました。
樹高約25m、幹周り約6.5m、推定樹齢約800年。2006年、近くに立っていた同サイズのミズナラが倒れ、その年輪を調べ、樹齢が分かったとのこと。全国的にみても数本の指に入るミズナラの巨樹ですが、特にサイズを示すような案内板はなく、県や国の指定も受けていません。
有名になってからは訪れる人が増えたため、巨樹の保護団体「全国巨樹・巨木林の会」のメンバーが中心となり、樹の根元に人が入らないようサークルを設置し、樹を保護しています。
恐竜の背中のようなゴツゴツした幹は、麓(ふもと)に向かって大きく傾きながら、枝葉をぐいぐいと伸ばし、まるで触手を伸ばしている違う生物のようにも思えました。
地面から近いキョリにあるコブも特長的で、以前はこのコブから太い枝が生えていたといわれています。
腰をおろし、のんびりと樹を眺めていると「ボサッ、ボサッ」となにやら物が落ちてくる音が。地面に目を向けると、ドングリがたくさん。
またそばには金袋山のミズナラと同じ角度で傾く、小振りのミズナラがありました(奥に写っているのが巨樹です)。
この樹の樹表はまるで人の顔のような模様をしていて、とってもユーモラス。もしかすると、ミズナラの巨樹が落としたドングリから成長した子孫かもしれません。
ミズナラの巨樹が立つ周辺はタワ尾根と呼ばれ、整備された登山道ではありません。正確には水源管理林の作業道で、クマも出没するそうです。訪れる際には、事前の準備と装備を忘れずに。