フリーライター『日日maika’i』

フリーライター杉山 忠義が書くブログです。

江戸川区・善養寺「影向の松」

善養寺はJR総武線小岩駅」南口から徒歩15分ほど、江戸川沿いにあります。駅からしばらくは賑やかな商店街が続きますが、川に近づくにつれ住宅や病院といった風景に変わり、同時に街中にも関わらず、大きな樹が道路沿いに立っていて目をひきます。松の樹の姿も幾つかありました。
 
善養寺の創建は1527年。京都・伏見にある世界遺産醍醐寺(だいごじ)の高僧、頼澄(らいちょう)法印が、夢の中で不動明王のお告げを受け、江戸川の地を訪れ、同尊を祀る小堂を建てたのが始まりといわれています。

影向の松

奈良県長谷寺を総本山、東京の護国寺大本山に仰ぎ、正式名称は星住山地蔵院(せいじゅうざんじぞういん)善養寺といいますが、地元住民は小岩不動(こいわふどう)と親しみを込め呼んでいます。春は植木市、秋には菊花展が開催され、多くの人で賑わうそうです。

寺内のほぼ中心に位置する影向の松の特長は、枝張りです。東西30メートル。南北28メートルもあり、繁茂(はんも)面積900㎡は日本一です。

影向の松

樹齢約600年。幹周り約4.5メートル。樹高は1本ぴょんと飛び出た幹が8メートルほどで、その他は平均して3メートルです。「影向(ようごう)」という言葉の意味は、神仏が他人の姿を借りて私たちの前に姿を見せることですから、この松は神様ということになります。

影向の松

まるで人の、腕、手、指先のような生命力を感じさせる、東西南北に広がった枝も見事ですが、その大元となる主幹に目をやると、立派な幹がどんと地面に根を降ろし、600年の歴史を感じさせます。雄松(おまつ)とも呼ばれるクロマツ特有の、荒々しい樹の表情も印象的です。

影向の松

太陽光が当たる側にはたくさんの苔が生えていますが、影側はそれほどではなく、樹を一周するとその違いがよく分かり、見る角度によって表情を変え、訪れる人を楽しませてくれます。

影向の松
影向の松

近くには小山があり、そこからの眺めも趣がありました。

影向の松

雨が降っていたこともあり、雨の雫が松葉の先にたまる自然美に、しばし心を奪われました。

影向の松

元気そうに見えた松でしたが、主幹の中は既に空洞なんだとか。老松ということ、加えて去年の猛暑の影響もあり、現在はあまり元気がないそうです。今から20年ほど前、松葉が茶色になったことをきっかけに、大学、都、区などが協力して、樹の存続に注力し始めます。以降は定期的に樹木医などが樹の様子を診断。現在は根の上に人が入らないようロープを張り、土壌改良をはじめとする樹の保護に努めているとのことでした。土壌改良のための肥料も見られます。

影向の松

こんなエピソードがあります。香川県・真覚寺にある岡野松と、影向の松が日本一の座を争っていることを聞いた地元江戸川出身の横綱栃錦(とちにしき)が、影向の松を東の横綱として推挙。そして通常の倍もある大横綱を寺に奉納し、影向の松にしめたそうです(現在は外され仁王門に飾られています)。残念なことに西横綱・岡野松はその後枯れてしまい、現在は影向の松が1人横綱となっていますが、これからも元気な姿を私たちに見せ続けて欲しいと思いました。