フリーライター『日日maika’i』

フリーライター杉山 忠義が書くブログです。

多摩ニュータウンに立つ2本の大きなシイノキ

2本の大きなシイノキへの最寄り駅は、多摩センター駅です。

 

多摩センター駅は、小田急電鉄京王電鉄多摩都市モノレールに加え、羽田・成田空港を往復するバスが乗り入れるターミナルが整備されるなど、多摩ニュータウンの中心に位置するハブステーション。駅周辺には、多摩ニュータウンらしい、整備された街並みが広がっています。

 

多摩センター駅前

 

駅から最初の樹までは歩いて20分ほど。なだらかな登り坂が続きます。

 

 

最初のシイノキは、広さ100平方メートルほどの平久保(びらくぼ)公園にあり、樹が公園に立っているというよりは、樹のために公園がつくられたという印象で、伸びた枝葉の一部が、公園の外にまで迫り出していました。

 

多摩ニュータウンに立つ2本の大きなシイノキ

 

平久保公園は小高い丘を小さくまとめた感じで、塚という印象も受けます。高低差は2~3階建ての家ほどで、それほどきつくない斜面に、へばりつくように大小2本の樹が立っています。樹は根元では独立していますが、頭上では互いの枝葉が絡み合い、全体の様子を形づくっています。

 

多摩ニュータウンに立つ2本の大きなシイノキ

 

公園の外から樹の様子を見ると、お椀を逆さにかぶせたような形が特徴的で、一番高い部分からさらに大きく成長しようと、3本の枝が“ぴょん”と飛び出ているのが、なんともユーモラスでした。

 

多摩ニュータウンに立つ2本の大きなシイノキ

多摩ニュータウンに立つ2本の大きなシイノキ

 

公園内には、樹を囲むように散歩道があります。樹の根元には鳥居、祠があり、犬を散歩している近所の方が、その前で合唱する姿がありました。公園整備に携わった方に話を聞くと、鳥居、祠も多摩ニュータウンが整備される以前より、この場所にあり、もともと辺りの山やシイノキを奉るために、地主の方が建てたとのこと。つまり樹の周りは、多摩ニュータウンが整備される以前から続く、変わらぬ光景ということです。先に述べ「樹のためにつくられた公園」との印象は、正しかったのです。

 

多摩ニュータウンに立つ2本の大きなシイノキ

 

樹勢は良好。散歩を楽しむ人に樹が当たらないようにと、支柱が数本立ち、枝葉を支えています。

 

太く大きく、まるで雑巾をしぼったような模様の樹皮を持つ樹が、都から天然記念物指定を受けているシイノキで、樹齢は500~600年。樹高25メートル、太さ5.9メートル、枝張りは27メートルあり、樹高は都が天然記念物指定している6本のシイノキの中で一番です。また、力強く地面を掴んでいるために発達したのでしょう。筋肉のように隆々としている根も、特徴的でした。

 

多摩ニュータウンに立つ2本の大きなシイノキ

 

枝葉に近づくと、まだ熟していな実がたくさんなっていて、いずれは「どんぐり」となり公園を埋めつくすのだろう。そんな考えが頭をよぎりました。

 

もう1本のシイノキは、平久保のシイノキから歩いて10分ほどの「一本杉公園内」にあります。こちらも樹も丘の斜面にへばりつくように立っています。

 

多摩ニュータウンに立つ2本の大きなシイノキ

 

一本杉公園のシイノキは、スダジイと紹介されていて、多摩市の天然記念物指定を受けています。高さ16メートル、太さ3.6メートル 枝張11メートル。こちらのシイノキの特徴は、ドームのようなしっかりとした形の樹冠(じゅかん)です。その堂々たる樹冠を眺めていると、ハワイにある「日立の樹」と似ているとました。

 

多摩ニュータウンに立つ2本の大きなシイノキ

 

樹に近づくと、樹冠をつくっているのが何百本という数の小さな枝葉の集まりであること分かり、びっくり。お寺で目にする千手観音像が浮かびました。

 

シイノキとはブナ科シイ属の樹の総称で、国内には「スダジイ」と「ツブラジイ」の二種類あり、関東以北にはスダジイのみが生えていることから、一般的に「シイノキ=スダジイ」とされています。

 

多摩ニュータウンは1960年代、戦後の高度経済成長を続ける中心都市東京都区内に、大勢の人が流入し住宅が不足したことを受けて、西多摩地域に整備された日本最大規模の計画都市です。広さは東西14キロ、南北1~3キロほどで、多摩市、町田市、稲城市、八王子市にまたがっています

                                   

多摩ニュータウンが計画された地域は、自然環境豊かな多摩丘陵の一角で、過去にはクヌギやコナラをはじめとするブナ科の樹がたくさん茂る雑木林で覆われ、高尾山のお膝元でもあります。そんな雑木林が削られ、自分たちの住みかを追いやられるタヌキの様子を描いた、『平成狸合戦ぽんぽこ』という映画のモデルにもなりました。

 

ですが、今回取材した2本の大きなシイノキに代表されるように、多摩ニュータウンには数多くの巨樹が残り、公園も多くあります。自然と人の共存――。多摩ニュータウンの開発に携わった方たちのそのような思いが、多摩ニュータウンに立つ巨樹には込められているのかもしれません。