フリーライター『日日maika’i』

フリーライター杉山 忠義が書くブログです。

白金台・附属自然教育園の「大蛇(おろち)の松」

白金と聞くと、多くの人が都心部の高級住宅街をイメージすると思います。ですが古代には原始林があった場所で、その後人の暮らしが始まってからも畑や田んぼといった農地が辺りを覆い、緑豊かな地域だったそうです。そして国立科学博物館附属自然教育園は、まさに古代からある豊かな緑が残る、都内でも貴重な場所です。

 

白金台・自然教育園

 

今から400~500年前、当時の豪族が今の園がある場所に館を建てます。この跡は今も土塁(どるい)として残っています。江戸時代に入ると讃岐国高松藩10代藩主であった松平頼胤(まつだいらよりたね)の下屋敷となり、明治時代は軍の火薬庫、大正時代は皇室の領地に。その後1949年に文部省の所轄となり、天然記念物・史跡に指定。「自然教育園」として、一般の人々への公開が始まります。1962年に現在の「国立科学博物館附属自然教育園」となり、現在に至ります。

 

園の広さは20ヘクタール。東京ドームが4つすっぽりと入る広さです。同園のホームページに掲載されている航空写真を見ると、その広さと緑のボリュームに圧倒されます。古代武蔵野の原生林が残っている場所は、都心では同園と皇居だけ、といわれているほど。都会のど真ん中にあるオアシスに癒しを求めているのでしょう。仕事の合間を縫って散策を楽しんでいる、スーツ姿のビジネスマンを見ることもできました。

 

園には「大蛇(おろち)の松」と呼ばれる、大きなクロマツがあります。樹齢約300年、幹周り約4メートル、樹高28メートル。園内で最も高い樹ですが、1979年の台風により枝が折れる以前は、樹高は30メートルもあり、遠方からも確認できるほどだったそうです。

 

大蛇の松

 

「おろちの松」という名は、地面から斜めに生えている姿から名付けられそうですが、斜めでありながらも真っ直ぐと天に向かって成長している姿は、蛇というよりは、巨大な「槍」という印象を持ちました。

 

大蛇の松

 

他の巨樹の影響で、樹の上の方にいくまで枝葉がほとんど生えていないのも、槍の印象を強くします。マツの巨樹に多く見られる樹皮のゴツゴツとした質感も、さほど感じません。

 

大蛇のマツ

大蛇の松

 

以前、田園調布で見た秋葉のクロマツと比較すると、樹皮の違いは一目瞭然です。300年も経っている割には、まだまだ若い樹という印象を持ちました。育つ場所が違うと、同じクロマツでも、成長の違いがあるようです。

 

 

園内には750種もの植物が育ち、水が沸き、小川や池もあり、カワセミヒキガエルをはじめとする動物が多く生息しています。その数、鳥類100種、昆虫類1300種、両性・爬虫類16種。古来より育つ巨樹も目立ち、スダジイ、マツといった大きな常緑樹の他、落葉高木である、ヤマザクラ、ムクノキ、エノキ、ミズキ、その他里山の代表木であるコナラも群生しています。

 


樹の種類だけでも開園当時は320種あったそうですが、現在ではその内82種は死滅してしまったとのこと。ただ、これには訳があるそうです。それは、同園ではできるだけ自然の状態で森林を保存しているため、落葉樹や針葉樹は大きな常緑広葉樹の生命力に押され、次第に死滅していくんだとか。いずれはおろちの松もなくなり、常緑樹だけの森林になると、園内の展示ホールに説明書きがありました。

 

注釈

下屋敷:江戸時代、本邸以外の大名の屋敷。

土塁 :動物の侵入を防ぐために、豪族の住居、集落、城、寺などの周囲に築かれた連

続した土盛りのこと。砦。

高木 :樹高5メートル以上の樹。